墨成

編集後記(2022年2月)

▼“何と書は人生に苦しみと愉しみを与えてくれることか”と、自惚れとも我田引水とも思える言葉が沸き上ってきました。新春展には以前にも増して多くの会員の方々が出品され、筆を持って自分の心を表すことは、書を愛する人にとって大切であることを再認識しました。

▼折しも小学生に、雅仙に挑戦する書初め指導のボランティアを経験しました。自分の身体が筆そのものになるような気持ちで身体全体で書きましょう、と。小さな画面のゲームばかりに熱中している、今どきの子供は根気がない等と言われがちですが、どうしてどっこい、一時間以上にわたって黙々と筆を持って書く姿には、感動するばかりでした。

▼上田桑鳩自作の句「命あるうちにこそ鳴け秋の虫」の書(書と文化)は限りある命を感じての表現でありましょう。限られた時間、限られた命と覚悟を迫られた時、人は何に時間を使い、何に命を燃やすのか。きっと自分の内奥にあるものを表現したいと思うことでしょう。言っておきたいことがある、と。

▼コロナは人を苦境に立たせました。しかし、独りの時間を深める機会をも投げ与えられました。書は言葉とともに内面を映し出します。書制作には、内奥にある本当の自分の心を見つめて表現することの意味を考え、実感された方が多かったのではないでしょうか。 (神原藍)