墨成

編集後記(2024年4月)

▼何をやっても上手くゆくことがある。反面、何をやっても裏目に出ることがある。人生は山あり谷ありと分かっている。しかし、天才と呼ばれる人は、凡人とは違って何をやっても適切なのだ。天才は天才に成るべきして生れ、天才に成るべきして育(はぐく)まれ、天才であるべき環境が整ってくる。

▼約一二〇〇年前の空海をあげても、彼は天才家系に生まれ、貴物(とうともの)と育まれ、教育を受けた。期待をかけられる以上に、自らで学ぶことのおもしろさを身につけていったのだろう。親の養育法が、我が子を一人の人格をもつ人間として慈(いつく)しんだからではないだろうか。

▼親が我が子のプラス面を見つけ、意識して関心を示し、感心する。そして子どもは自分自身に肯定感を持つ。何かに依存することなく、自らを育てる術を知っていくのではないだろうか。

▼失敗を重ねるときは、自分で考えることを放棄している時。何かに縋り、誰かにすがり、失敗を思い浮べ、自信を無くしてしまう。

▼筆で文字を書くという作業は、失敗する自分さえも許してくれる。墨の線は脳を刺激し、体幹を使い、自分の中に支柱を立ててゆく。建設的な心持にさせる。筆の線は失敗を糧として強さを植え付ける。幾度も書いては未知の線を見つける。ドーパミンが増えてゆく。努力に勝る天才なしと言われる由縁だ。(神原藍)