墨成

編集後記(2022年5月)

▼人類は成長しているのだろうか。それとも弱く脆いものなのだろうか。コロナ感染も収束しない中、何の罪もない人間が虫けらのように人のつくった兵器で亡き者にされた。欲望に負けてしまった人の弱さを露呈した。理性や人道もなく、営々と積み重ねてきた人間の叡智を木っ端みじんに蹴散らした。何も出来ないからか、何もしないからか、気持ちばかりが疲れる。無力感に打ちのめされる。

▼手島先生の『崩壊』は崩れゆくものの姿を表現した書作品だが、戦争と真逆だ。真も善も美も相容れない未熟さが戦争であり、容赦なく叩き潰す病的な恐ろしさが戦争なのだ。手島先生の書はあまりにも美しく、崩壊されたのちに整備された何年後かの風景に見える。

▼宮沢賢治は「芸術をもてあの灰色の労働を燃やせ、ここにはわれら普段の潔く楽しい創造がある」と人々を励ました。働くことも創造することも平和であってこそと思うが、賢治の言葉は時空を超えて心に響く。人は生きることの辛さを自分の中で熟成させ、芸術へと昇華させるのだ、と説いている。

▼辛い事や恐ろしさを見て疲れてしまう共感疲労。それを賢治は芸術に昇華させろ、と言うだろう。賢治は自らの命を削って言葉を紡いだ。温かいまなざしを注ぎ続けた一生だった。人と人は信頼しあってこそ人間なのだと賢治から学ぶ。(神原藍)