墨成

編集後記(2022年6月)

▼もう何年も前のこと、大ベストセラーになった『声に出して読みたい日本語』を著した齋藤孝先生の講演を聴いた。一万人以上もの聴衆に、日本語のすばらしさをユーモアを交え熱く語られた。先生は膨大な本を出されているが、『なぜ日本語はなくなってはいけないか』(草思社)を上梓された。

▼「当たり前に使っている言葉の、日本語の素晴らしさを再認識してほしい。何もしなければ自然環境が守れないのと同じように、日本語も努力しなければ守れないと知ってほしい」と警鐘を鳴らされたのだ。折しも、米テスラ最高経営責任者のイーロン・マスク氏が「出生率が死亡率を上回るような変化がない限り、日本はいずれ存在しなくなるだろう」とツイッターに投稿し、衝撃を受けていた。日本の国民と国家があって日本語は存在する。と同時に、日本語が消えてしまえば、日本という国家も存在しなくなるのではないだろうか。

▼言語と国家の存在は密接な関係がある。歴史的に見ても世界情勢を見ても、独裁者による民への支配は、乱暴なほど権力によって言語を統一させられている。

▼言葉は、人を育み慈しむ。日本語の柔らかさ、優しさ、強かさ、そして想像を運んでくれる言語を失ってはいけない。読む、聞く、考える、書く、歌う。五感全てを使って日本語を守りたいと痛切に思う。(神原藍)