墨成

編集後記(2023年1月)

▼新しい年が明けました。今年こそは半歩でも成熟に近づきたい、と固く思います。無知と集中力の無さがミスを引き起こしてしまい、心が折れそうになる日々が続いても。最新のデジタル機械や科学の進歩に付いてゆけなかった日々が続いても。どんな人生でも意味がある、と自身を顧みて慢心から抜け出さなければなりません。

▼日本の伝統文化の一端を担う書の下地は、遣隋使や遣唐使が中国から漢字を取り入れ、平和な時代に熟成させて来ました。やがて長い時間をかけて、日本独特のかなを創ってきた歴史があります。

▼今年の表紙の課題は藤原佐理『離洛帖』を学びます。佐理は十世紀後半に生きて、日本書道史上、小野道風・藤原行成とともに能書家としても有名です。二年続けて“三筆”(空海・嵯峨天皇・橘逸勢)の一人、橘逸勢の書を臨書してきました。平安初期の三筆に対して“三蹟”の大きな一端を担う佐理の書は、優美な書風に加えて洗練された強さが加わる草書体です。

▼和洋書道確立に華々しく貢献したと言える佐理の書には、今のかな文字が草書体の漢字に違和感なく溶け込んでいます。「書と文化」にも「や・也」が見えます。佐理の代表作と言われ、歴史的に見ても貴重な『離洛帖』は、仮名文字を書き作品をつくる上でも貴重な古典です。(神原藍)