墨成

編集後記(2023年3月)

▼四半世紀も前、癌の疑いを持たれ、検査、手術、抗癌剤と最先端の癌治療を経験した。手術後の病理検査で結果的に悪性の癌ではないことが解ったのだが、当時は絶対に治すことを肝に銘じ、悔いの無いようにとあらゆる医療機関に通った。手術の後は抗癌剤を打ち、副作用で死んでしまうのではないかと思う苦しみも味わった。その経験が今の健康状態を保っているのかもしれない。真実を伝えて下さった医師に感謝し、一歩手前の三途の河から戻って来た経験は、いろんな意味で良い経験になったと言える。以来、身体には敏感になっている。人間の自然治癒力を真に信じている。

▼自分の内なるものを信じる考えは、ヨガにも共通している。心と体の潜在能力を引き出すというヨガの本質は、強さは自分の内側で見つけるものだ。外側に誇示するものではない。今の自分が出せる精一杯の力を、自分の身体で挑むのだという考えがヨガであり、本質である。

▼翻って、筆を持つことと似ている。人と人が一番や二番を競うのではない。自分の能力をどこまで引き出せるか、自分をどこまで信じて、どこまで愛せて、内なる考えや想像を具体化できるか、と書の本質は筆を持つものに突き付ける。ヨガに惚れ込み、書に没入して、周りにどれだけ良い影響を与えられるかと試されている。そうして、ポジティブな人からエネルギーが増幅されて戻って来る。(神原藍)