墨成

編集後記(2023年10月)

▼会場入り口は零(こぼ)れんばかりの花籠があり、画廊は溢れんばかりに作品が展示されていました。それは佐々木平等先生がご家族や周りの方々のあふれんばかりの愛情に包まれてきた証(あかし)でしょう。長年培った感性を作品に籠め、周りの方々に書の可能性を問い、想像力を掻き立てていらっしゃいました。何の屈託もなく、誠実に努力と敬意を込めて。

▼比田井天來先生の流れを汲み、手島右卿先生が創立された日本書道専門学校を卒業されて帰郷された際、お父上は教室を造って下さったそうです。佐々木比奈先生はお母様ですが、平等先生の三道教室の一員として、かつて墨成にご出品されておりました。現在100歳近くなられて、お元気で過ごしておられるそうです。

▼会場の受付には快活で嫋(たお)やかなお嬢さんと、聡明なご子息さんがにこやかに観る者に応対されていました。東京から駆けつけてお手伝いしているのだそうです。ご両親の愛情をたっぷり受けて育てられたお二人の恩返しでしょうか。お互いに敬意を持った篤い信頼関係を拝見しました。

▼伝統文化の書は、現代の世では昔ほどの勢いは感じられません。しかし自らを肯定し、感性を信じ、信頼する人の愛があれば、自らを奮い立たせ、書の未来を見つけられることを、佐々木平等書展は明らかにして下さいました。(神原藍)