
編集後記(2024年5月)
▼最大限に自分を表現して人々からリスペクトを得ている人がいる一方、奈落の底に自分自身を突き落としてしまう人がいる。何が違うのだろうか。一つは、想像力の有無であると思う。自分の理想像を持てるか持てないかの違いではないだろうか。
▼「人間は、自己の自然本性の完成をめざして努力しつつ、善く生きることを目指す人同士の共同体をつくることで完成に至る」と、古代ギリシャの哲学者アリストテレスは名言を遺した。それは他の動物には見られない人間特有の自然本性であるという。確かに善く生きることを目指している人は自己の内面に目を向けている。
▼現実の中の真実を確かめる。雑然とした中から美しいものを見出す。その努力が善悪を判断する能力を培い、善く生きることに繋がるのではないだろうか。
▼NHK大河ドラマ『光る君へ』で、藤原道綱母に「日記を書くことで己の悲しみを救った」と台詞(せりふ)がある。彼女は『蜻蛉日記』の作者で、紫式部や清少納言のような作家の魁(さきがけ)となった人。自分の喜怒哀楽を書くことで、ものごとを客観視していたのではないだろうか。
▼しかし、想像していることを具体化するには、自分にも他人にも嘘をつかずに、己を信じて努力を続けることが絶対条件。最後は感性や力量を含めた人間性の全てが試されるのだと思う。(神原藍)